「自己主張」と「共感」とは
自己主張と共感を簡単に述べると、自己主張は「自分の意見や気持ちを他者に伝えること」、共感は「他者の感情を理解し、相手に寄り添うこと」を表します。
この2つの言葉は一見すると「自分のことを言う」と「相手に寄り添うこと」と対立するように思えるかもしれませんが、実際には相互に補い合うものです。
相手に共感しながら自己主張できることで、相手の立場を意識しつつ自分の考えも伝えるなど、よりよい人間関係を築くことができるようになっていきます。
1. 自己主張と共感のバランスを取る難しさ
「自己主張」と「共感」は、どちらも対人関係を良好に保つために重要な要素で、子どもに限らず健全な対人関係を築くためには、これら自己主張と共感のバランスを取ることが求められます。
しかし、これらのバランスを周囲の人々と調整しながら生活することは難しいもので、それによって様々なトラブルに派生することも多くあるのです。
例えば、自己主張が強すぎると、他者の意見や感情を無視して自分の考えを押し通すことになり、対人関係で摩擦や軋轢を生む原因となります。
ドラえもんで言うジャイアンが代表例ですね。
逆に、自己主張が弱く、相手のことばかりに寄り添う共感のみが強くなると、自分の意見を言えず、他人に流されるばかりになってしまいます。
このように、子どもが自己主張と共感のバランスを取れないことは、学校生活を送る上でトラブルが発生する要因となる可能性があります。
2. 自己主張が強すぎる子どもに対するアプローチ
自己主張が強すぎる子どもは、他人の意見を聞かずに自分の考えを押し通しがちです。このような行動は、周りの人から「わがまま」や「自己中」と捉えられ、友達や先生と衝突することもしばしば。
最終的に、その子の周りから人が離れていったり、嫌な人と邪険に扱われたりすることにつながり、子どもの孤立感を強めることに繋がります。
よくある行動と改善の方向性
- グループで遊ぶ際にみんながやりたくないことでも、自分だけがしたいことを押し通す。
→最初に「皆がやりたいことを教えて」等、相手の意見を尋ねる練習をする。 - 友達が自分の意見に反対したときに相手の意見を無視したり、否定したりする。
→「自分はこう考えるけど、あなたはどう思う?」等、相手の意見を尊重する話し方の練習する。
→自分の主張を強調するだけでなく、「それいいね。だけど、こっちも良くない?」等、相手の意見も大切にするように言葉の使い方を練習する。
自己主張が強すぎる子どもは、自分の意見を最優先する傾向にあることから、自分の話を聞いてもらえないことや、自分の望みが叶わないことが強いストレスになることが多く、その結果、他者を無視する・傷つけるような言動をとってしまうことがあります。
このような子どもには、「他者の意見を尊重する」「自分の意見を言う時に、相手の気持ちにも配慮する」という考え方を教えることが必要になってきます。
例えば、友達が「私はそれをやりたくない」と言った時に、「じゃあ、やらんでいい」ではなく、「どうしてやりたくないの?」と相手の意見を受け入れる姿勢を見せることができるように支援していくことが大切です。
子どもが言葉の選び方、トーン、表情や態度など、気をつけるポイントを理解し、言葉掛けの方法を繰り返し練習していくことで、相手を尊重しつつ意見を主張できるようになっていきます。
改善に向けた取り組み例
アサーション・トレーニング
例:「自分の意見を相手を尊重しながら伝える練習」
- 「私は~と思う」を使った文章を考える(例:「私はドッジボールをしたい」)。
- 「相手の気持ちを考えた伝え方」を考える(例:「〇〇さんの意見もいいと思うけど、私は〜だと思ったんだ」)。
- 実際の場面で使い、結果を振り返る。
失敗体験のサポート
例:「友達と意見が合わずに落ち込んだときに、一緒に振り返りをする」
- 「どうしてうまくいかなかったのか」を教師や友達と一緒に考える。
- 「次に同じことがあったら、どうしたらいいか」と、よくない行動を否定するだけでなく、前向きかつ、具体的な対策を話し合う。
- 改善策を試してみて、改善ができていたかどうかのフィードバックや、褒めることでの価値付けを行う。
共感力が低い子への共感のトレーニング
例:「相手の気持ちを考える練習として、アニメや漫画のキャラクター、イラストについて話し合う」
- 「このキャラクターは今、どんな気持ちかな?」と問いかける。
- 「もし自分が同じ立場ならどう感じる?」と想像してもらう。
- 実生活のシーンに置き換えて、「もし友達がこう言ったら、どう思う?」と話す。
共感性が低い子どもは相手の感情を理解できなかったり、相手の気持ちを考えて行動することができなかったりします。
特に特別な支援が必要とされる児童に関しては、共感の力が弱いことが多いです。それによって、友達関係でのトラブルが起こることがありますので、SST(ソーシャルスキルトレーニング)などを通して共感する力についての正しい知識とスキルを身につけていくことが望ましいです。
3. 共感が強すぎる子どもに対するアプローチ
共感する力が育っていない子どもは、先程お話した自己主張が強すぎる子どものような姿や相手の気持ちを考えない発言が多くなります。
しかし、逆に共感する力が強すぎるために自分の気持ちをうまく伝えられなくなる子どもの姿もあります。
それにより、周りの友達の意見に対して自分の意見が言えずに、ただ流されてしまうだけといった、あまり良くない人間関係構築につながることも。
自分の意見を言わず、他人に流される
- 自分が嫌なことでも流されてしてしまう
→嫌だと感じたことについて、「これはちょっと嫌だった」と感じたことを相手に伝える練習をする。 - 自分の希望を伝えられない
→「私は〇〇がしたい」「〜もいいけど、私はこう思う」といった自分の気持ちの伝え方を練習する。
自己主張が弱く、共感が強すぎる子どもは、自分の感情をうまく表現できなかったり、対人関係に対して不安感を抱いたりします。
特に小学校中学年から高学年になるにつれて、子ども達の仲間意識は高まりますが、学級や学年内で複数のグループができていくとより不安感が強くなる傾向にあります。
そこで、子どもが自分の感情を表現できるようになるために、自分の気持ちを言葉にすることを練習させます。例えば、「今日は〜があって悲しかった」といったように、感情を素直に表現する機会を設けることが考えられるでしょう。
その機会を設けるのは、学校生活の中でも構いませんが、その他の方法として日記指導などを通して身につけていくことも考えられます。
4. 家庭で社会的なスキルを高める簡単な練習方法
子どもが自己主張と共感をバランスよく身につけるためには、日常的に練習することが大切です。そのために、家庭と学校、双方で自己主張と共感のスキルを活かす実践の場を作るとよいでしょう。
家庭で簡単に取り組める方法としては、家庭内で「夕飯は何を食べたいか」「テレビ番組は何を見たいか」「入浴剤は何の香りのものを入れようか」という話し合いの場を作るというものがあります。
この場合、相手の話を聞く練習としては、まず他の家族の希望を聞いた後に自分の意見を話すようにすることがポイントです。
この活動を通じて、子どもは他者の意見を聞きながら自分の思いを表現することに慣れていくでしょう。
「今日はお母さんの見たいのを見ていいよ」「じゃあ明日はお母さんの番ね」といったように、相手の気持ちを尊重するような言葉かけが出てくるようになればよいですね。
5. 社会性が低い子どもへの支援で気をつけたいこと
社会性が低い子どもたちは、対人関係において上手く行かないことが多く、それによって人間関係に対する煩わしさや拒否感を感じている場合があります。
そのため、適切な対人関係を築くために短期ではなく、長期的な目線を持って社会性を育てていく必要があることを忘れずにいてください。
長期的な目線で社会性を育んでいくことを考えた場合、まず必要なのは安心して生活できる環境を作ることでしょう。
特に、自己主張が強いタイプの子どもが自分の行動について振り返ることができるような環境をつくることが求められます。
そのためには、教師が児童生徒理解に努めることが大切になりますので、「あの子はやんちゃな子だから」と決めつけるのではなく、その子の持つ想いを見つめていきましょう。
安心して話すことができる環境ができたら、最初は自己主張する力を伸ばしたいのであれば「好きな食べ物は何かな?」といった簡単な質問に答えることから始める、共感する力を伸ばしたいのであれば、相手の発言に対して、「それいいね。私は(も)〜と思う」と相手の考えを受け止めるところから始める、などスモールステップで取り組みを始めていきましょう。
それらの活動にある程度子どもが慣れてきたら、少人数グループで話し合い、意見をまとめる活動などに取り組み、そしてそれにも慣れたら更に枠を広げていくとよいでしょう。
また、日常的にサポートすることができる体制を作っておくことも大切です。
例えば学校ではトラブルが起きたときに、感情的にならずに対応する方法を学ぶといった、SST(ソーシャルスキルトレーニング)の考え方を大切にした取り組みを継続したり、子どもの成長や変化の様子を子どもと一緒に振り返ったりして子どもの成長を実感させたりする取り組みが考えられます。
当然ですが、これらの活動では子どもの行動や成長についてフィードバックを行うことも大切です。
「どんなことが良かったのか」、「どんなことができればこれからもっと良くなるのか」と具体的に話すことによって、子どもの成長につながっていくことでしょう。
まとめ
自己主張と共感のバランスを取ることは、子どもの人間関係の構築において非常に重要です。うまくバランスを取ることができれば、他者との関係性をより良く築いて行くことができるようになり、それによって社会における適応力を高めることができます。
そのためにも、親や教師は、日常生活の中でこれらのスキルを自然に学べるような場を意識的に作ることが必要になっていきます。
日常的に子どもとの会話で、相手のことを思いやった発言ができているか、そして自分の気持ちを素直に話すことができているか、観察しながら成長を目指していきましょう。