今回お話を伺った桜野リアさんは、幼稚園・保育園の時期から高校にかけて長期間の不登校を経験されました。幼少期からの過酷な家庭環境や学校でのいじめを生き延び、自発的な勉強や少人数制高校での学びを経て、大学を首席で卒業するという経歴を持っています。
しかし、彼女の歩みは単なる「不登校からの大逆転劇」にとどまりません。過酷な現実と向き合い、自らの手で「生き抜く道」を開拓してきた桜野さんの体験には、大人たちが知るべき「支援の本当のあり方」が詰まっています。
本記事では、桜野さんの語る実情とメッセージをもとに、専門性と当事者目線を両立させた視点から、保護者や教員が大切にすべきポイントをわかりやすく解説します。
不登校の背景にある「複合的な困難」——家庭と学校の双方で起きていたこと
不登校支援において「学校に行けない理由」が議論されがちですが、桜野さんの事例では、問題は学校だけにとどまりませんでした。
家庭内での凄惨な不条理
桜野さんの家庭環境は極めて凄惨なものでした。幼少期からの親による虐待(包丁を突きつけられる、首を絞められる等)、保育園での虐待的対応(数時間の放置、理不尽な怒鳴りつけ)、母親の躁鬱病や頻繁な自殺未遂への対応、さらにはペットの殺害や実母による飛び降り事故の目撃など、子供の力ではどうにもできない恐怖と混乱の中に置かれていました。また、宗教3世として強制された過酷な合宿や、毎日部屋にゴキブリが大量発生する劣悪な環境、父親や祖父がいない中での母親と祖母の激しい喧嘩の仲裁など、安全であるはずの家庭が絶えず緊張に満ちた場所となっていました。
学校における孤立といじめ
学校においても、小学校時代に「はみ子」となじられたり、足を踏みつけられたり、「死ね」といった暴言を吐かれるなどのいじめを経験しました。通常学級に無理やり参加させられても、漢字が読めないため板書が間に合わず挫折し、誰に対しても声が出なくなる症状が生じるなど、学校もまた安心できる居場所ではありませんでした。
【保護者・教員への示唆】
子どもが不登校になったとき、表面的な「学校でのトラブル」だけに目が行きがちです。しかし、家庭環境の問題と学校環境の問題が複層的に絡み合っているケースがあることを理解しなければなりません。家庭も学校も息ができる場所でない場合、子どもは極限状態に追い込まれます。大人に求められるのは、子どもを無理に登校させることではなく、まず「恐怖や暴力のない安全な環境」を確保することです。
「ネットゲーム」と「独学」がもたらした学びと居場所
不登校の期間中、桜野さんの生活と学びを支えたのは「ネットゲーム」と「自発的な勉強」でした。
ゲームから得たスキルと人間関係
保育園児の頃からパソコンでネットゲームに親しみ、ゲーム中のチャットを通してローマ字や漢字の読み書きを覚えました。また、タイピング技術や芸術的センスもゲームを通じて磨かれました。さらに、ネットゲームを通じて知り合った友人たちとは16年以上の交流が続いており、後に結婚相手ともネットゲームを通じて出会うこととなりました。現在はそのスキルを生かし、映像クリエイターとして活躍しています。
自分で進めた基礎学習
小学校高学年までは毎朝母親に玄関先まで引っ張られる生活が続きましたが、小5頃に吹っ切れ、昼間もゲームをして過ごすようになりました。しかし、「普通の人になりたい」という強い願望から、中学校時代には自分でドリルに取り組み、四則計算の筆算、正の数・負の数、一次関数、小学校3年生程度までの漢字の読み書きを自力で習得しました。
【保護者・教員への示唆】
不登校中の子どもがゲームやインターネットに没頭していると、多くの大人たちは「時間を無駄にしている」「現実逃避だ」と否定的に捉えがちです。しかし、桜野さんの事例が示すように、本人が夢中になれる活動(やりたいこと)の中にこそ、将来の生きる糧や貴重な人間関係、スキル開発の芽が隠されていることがあります。大人に必要な姿勢は、ゲームを一律に排除することではなく、「本人がやりたいと思っていることを応援し、見守ること」です。
転機となった「環境の再構築」——少人数制高校との出会い
桜野さんが不登校から抜け出し、大きく状況が変化した転機は、高校進学でした。
環境を変えるための選択:やしま学園高等専修学校
桜野さんは、障害者や不登校経験者が多く通う少人数制の全日制高校「八洲学園高等専修学校」(大阪府)に進学しました。1学年約20名という少人数環境であり、通信制の八州学園高等学校とのダブルスクールによって高卒資格を取得する仕組みでした。
自分だけの空間と距離感の確保
高校進学に伴い、自宅の倉庫(エアコンのない2畳の部屋)を自分の部屋として確保し、部屋を清潔に保つことでストレス源を減らしました。また、親からの過干渉をほぼ無視し、宗教関連の強制も拒否するなど、家族と適切な距離を置く術を身につけました。高校での手厚い環境のおかげで勉強上の課題も解決し、学年1位の成績を収めるまでに回復しました。
大学進学と首席卒業
高校卒業直前にはネットの友人の家に居候(間借り)を開始し、物理的にも家族や宗教の問題から離れることに成功しました。その後、大阪商業大学に進学し、首席で卒業するという快挙を成し遂げました。
【保護者・教員への示唆】
環境を劇的に変えることが、子どもの再生において決定的な意味を持ちます。特に高校進学の段階では、一般的な進学校や大人数の学校にこだわるのではなく、支援体制が整った少人数制の高校や専修学校を選択肢に入れることが有効です。桜野さん自身も「うつ病が一度寛解したきっかけ」として、大阪の「八洲学園高等専修学校」のような具体的選択肢の存在を知ってほしいと強く望んでいます。
当事者が発する「諦めろ」という言葉の真意と現実
桜野さんが過去の自分や不登校に悩む子どもたちへ贈る言葉として挙げているのが、「諦めろ」という言葉です。この言葉には、甘えや投げやりではなく、壮絶な経験に裏打ちされた「現実受容」の深意が込められています。
「諦めろ」に込められた意味
「未成年のうちは、家族や環境など自分の力ではどうにもできないことばかり。時間が解決するから、無理にもがいて苦しまず、現状を受け入れろ(諦めろ)」というメッセージです。未成年者が親の庇護下にある間は、自力で解決できない問題が多いため、無理に抗おうとして精神をすり減らすよりも「成人するまで耐える」「時間が解決するのを待つ」という現実的な生存戦略が必要です。
「普通の人」という幻想からの解放
桜野さんは不登校時代、「普通の人になりたい」と願い、努力を重ねて大学首席卒業まで果たしました。しかし、幼少期からのトラウマや対人関係のブランクは残り、社会に出てから人間関係で何度も挫折を経験しました。現在もASD(自閉スペクトラム症)、うつ病、月経困難症(子宮内膜症)のほか、対人恐怖症や心因性失声症、過敏性腸症候群(IBS)などの症状と付き合っており、就労継続支援A型事業所での在宅勤務という形で社会生活を維持しています。
【保護者・教員への示唆】
「学校に戻って『普通の人』にならなければならない」という強い固定観念は、子どもだけでなく大人をも追い詰めます。学歴や成績を収めたからといって、過去のトラウマや生きづらさが一朝一夕に消えるわけではありません。 本当の意味での救いとは、無理に「普通」を目指させることではなく、「ありのままの限界や現実を受け入れ(諦め)、その上で自分に合った暮らし方や働き方を見つけること」です。
保護者と教員に求められる「具体的な支援のアクション」
桜野さんの手記から抽出される、保護者や教員が実践すべき具体的な支援指針は以下の通りです。
- 【保護者へ】虐待や過干渉を絶対にやめる 子どもへの暴力や暴言はもちろんのこと、過度な干渉や親の価値観の押し付け(宗教や進路など)は、子どもの心を破壊します。子どもを一人の独立した人格として尊重し、干渉しすぎないことが重要です。
- 【教員へ】無理な登校刺激や「全人教育の強制」をやめる 登校を強制することや、クラスメイトからの寄せ書きを強要することは、子どもにとって苦痛でしかありません。また、配慮のないまま通常学級に押し込むことも避けるべきです。本人のペースを尊重し、別室登校や少人数環境での学習機会を提示することが求められます。
- 【共通】やりたいことを全力で応援する 子どもが興味を持っていること(ゲーム、イラスト、パソコン等)を尊重し、応援してください。学びのきっかけや将来の生業は、教科書の中だけに存在するわけではありません。
- 【共通】最低限の基礎学習(国語・算数)をサポートする 将来の選択肢を広げるために、国語(漢字の読み書き)や算数・数学(基本的な計算など)の最低限の基礎力だけは、本人のペースで触れられるようにしておくことが推奨されます。努力次第で不登校から大学へ進学することは十分可能です。
まとめ——生き抜くためのしなやかな「諦め」と「居場所」の提供
不登校支援の最終ゴールは、「元の学校に復帰すること」でも「誰もが納得する『普通の人』になること」でもありません。
桜野リアさんの壮絶な半生が教えてくれるのは、どんなに過酷な状況であっても、「自らのやりたいことを見つけ、自分に合った環境を選び取り、現実を客観的に受け入れること(諦めること)」によって、人は生き抜いていけるという事実です。
保護者や教員をはじめとする支援者に求められるのは、子どもを型にはめようとする執着を手放し、子どもの安全を守りながら、彼ら・彼女らが「やりたいこと」に向かって歩む背中を温かく支えることです。
桜野リアさん関連リンク
桜野リアさん
リンク集:https://lit.link/sakuranoria
X:https://x.com/Sakurano_ria
ハートスクール関連リンク

Youtubeチャンネル:https://www.youtube.com/channel/UCyuaHCKbEC6Up9dxXW_jlhQ
Xアカウント:https://x.com/Heart_School_24
ハートスクールDiscordに参加をご希望の「専門家」および、「不登校経験者」の方は、上記Xアカウント、もしくは本HPの代表プロフィールより参加希望のメッセージをいただけたらと思います。
関係リンク
リコペマ様「きもちキャラメーカー」:https://picrew.me/ja/image_make

コメント